AWS環境からメールを送信したいと考えた際、まず迷うのが「どのサービスを使うべきか」という点です。特にAmazon SES(以下、SES)とAmazon SNS(以下、SNS)は名称も似ており、どちらもメール送信機能を持っているため混同されがちです。
本記事では、それぞれの特徴と技術的な違い、そしてビジネスにおける最適な使い分けについて解説します。
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目次
AWSでメール送信を行う主な3つの選択肢
AWSを利用してメールを送信する方法は、主に「Amazon SES」「Amazon SNS」「EC2からの直接送信」の3つが挙げられます。
しかし、これらは機能や推奨される用途が明確に異なります。現在は、可用性や運用管理の観点からSESが標準的な選択肢となっていますが、それぞれの特性を理解しておくことが重要です。
Amazon SES (Simple Email Service)
Amazon SESは、その名の通り「メール配信」に特化したフルマネージドサービスです。数通のテストメールから数百万通のマーケティングメールまで、確実に相手に届けることを主目的とした基盤として設計されています。
メールサーバーの構築や複雑な運用管理が不要で、高い到達率(Deliverability)を維持するための機能が豊富に備わっているのが特徴です。ビジネスにおける「顧客へのメール配信」であれば、AWSにおける第一選択肢は間違いなくSESです。
SMTPインターフェースやAPIを利用して既存のアプリケーションに簡単に統合できるため、開発者の負担も大幅に軽減されます。
Amazon SNS (Simple Notification Service)
Amazon SNSは、「メッセージ通知」を行うためのサービスです。メール送信機能も有していますが、主眼はシステム間の連携(A2A)や、SMS・モバイルプッシュ通知(A2P)に置かれています。
SNSは、分散システムやマイクロサービス間でのメッセージング(Pub/Subモデル)を得意としています。メール送信機能はあくまで「通知の一手段」として提供されており、システム管理者へのアラート通知などには便利ですが、一般ユーザー向けのメール配信には適していません。
例えば、メール本文のカスタマイズに制限があったり、登録解除の仕組みが強制されたりするため、マーケティング用途や顧客対応メールとして利用するには機能不足となるケースが大半です。
Amazon EC2 からの直接送信
Amazon EC2上にPostfixやSendmailなどのメールサーバーソフトを自前で構築し、送信を行う従来の手法です。かつては一般的でしたが、オンプレミスからの移行時などを除き、現在はあまり推奨されません。
AWSを含むクラウド環境では、スパムメール対策として25番ポートからの送信制限(OP25B)が実施されています。解除申請を行えば送信自体は可能ですが、IPアドレスのレピュテーション(信頼性)管理や、セキュリティ対策、サーバーの保守運用をすべて自社で行う必要があり、運用コストが肥大化しがちです。
現在では、EC2上にアプリケーションがあったとしても、メール送信部分だけは信頼性の高いSESのエンドポイント(SMTP)を経由させる構成が一般的です。
【徹底比較】Amazon SES vs Amazon SNS 違いと選び方
両者の最大の違いは「プロトコル」と「配信モデル」にあります。SESは標準的なEメールプロトコルに準拠していますが、SNSはあくまでトピックに対するメッセージ配信という独自の仕組みで動作します。
この技術的な差異が、実際のビジネスメール運用において大きな使い勝手の差となって現れます。
プロトコルと配信の仕組みの違い
SESはSMTPまたはAPIを使用し、一般的なメールクライアントと同様にHTMLメールや添付ファイルを送信可能です。対してSNSは「トピック」にメッセージを投げ、それを購読(サブスクライブ)しているエンドポイントに配信するPub/Subモデルを採用しています。
SNS経由のメールは、本文がJSON形式で届く場合があるほか、AWS側で強制的に「登録解除(Unsubscribe)」リンクが付与されます。受信者が誤ってリンクをクリックすると即座に配信停止となり、再登録には手間がかかるため、顧客向けのサービス運用には不向きな側面があります。
ユースケース別:Amazon SESを選ぶべきシーン
ビジネスとして「ユーザーにメールを届ける」必要がある場合は、ほぼ全てのケースでSESが推奨されます。代表的な利用シーンは以下の通りです。
- 会員向けのメルマガ配信
- パスワードリセット等のトランザクションメール
- 独自ドメインで信頼性の高いメールを送りたい場合
まず、会員向けのメルマガ配信においては、SESが向いています。数万〜数百万規模の宛先に対しても、遅延を最小限に抑えて配信できるスケーラビリティがあるためです。また、HTMLメールなどのデザインされたコンテンツも崩れることなく送信できるため、マーケティング効果を高めることが可能です。
次に、パスワードリセットや注文完了通知といったトランザクションメールです。これらのメールはユーザーのアクションに対して即座に届く必要があり、かつ確実に受信ボックスへ到達しなければなりません。SESは高い到達率を維持する仕組みがあるため、重要な通知が迷惑メールフォルダに振り分けられるリスクを低減できます。
最後に、独自ドメインでの運用です。自社ブランドのドメイン(例:support@company.com)を使用し、DKIM・SPF・DMARCなどの認証設定を適切に行うことで、フィッシング詐欺などのなりすましを防ぎ、受信者からの信頼を獲得できます。
ユースケース別:Amazon SNSを選ぶべきシーン
SNSは、開発者や管理者向けの「通知」や、メール以外のチャネルへの配信に適しています。主な利用シーンは以下の通りです。
- システム障害のアラートを管理者に通知する場合
- AWS Lambda 等の他のAWSサービスをトリガーする場合
- SMS(ショートメッセージ)やモバイルプッシュ通知を送りたい場合
最も一般的なのが、システム障害のアラート通知です。例えば、Amazon CloudWatchでサーバーのCPU使用率やエラーログを監視し、異常検知時にSNSを通じて管理者のメーリングリストへ即座に通知を飛ばすといった運用が考えられます。JSON形式の生データが含まれていても、管理者であれば問題なく解析できるため、SNSの簡便さが活きます。
また、他のAWSサービスとの連携もSNSの得意分野です。メッセージの受信をトリガーにしてAWS Lambda関数を実行したり、SQSキューにデータを渡したりすることで、疎結合で柔軟なシステムアーキテクチャを構築できます。
さらに、マルチチャネル配信も挙げられます。一つのメッセージをSNSトピックに投げるだけで、メールだけでなくSMS(ショートメッセージ)やモバイルアプリへのプッシュ通知も同時に配信できるため、ユーザーへの到達手段を多重化したい場合に有効です。
Amazon SES を利用するメリット
Amazon SESが選ばれる理由は、単に「メールが送れるから」だけではありません。クラウドサービスならではのコストメリットに加え、自前運用では維持が難しい「到達率」の管理機能や、受信機能によるシステム拡張性が評価されています。
圧倒的なコストパフォーマンスとスケーラビリティ
SESには初期費用や最低利用料金がありません。EC2などのAWSリソースから送信する場合、AWS利用開始から最初の12か月間は、毎月3,000通まで無料枠(※条件あり)で利用可能です。
無料期間の終了後や無料枠を超えた場合でも、1,000通あたり0.10ドル(※リージョンによる)と、非常に安価に設定されています。
また、サーバー構築が不要なため、ハードウェアの保守費用もかかりません。配信数が急増してもAWS側で自動的にスケールするため、年末商戦やキャンペーン時などのスパイクアクセスにも、インフラ増強なしで対応可能です。
Amazon SES 料金|AWS にアクセス
高い到達率を実現するレピュテーション管理
メール配信で最も困難なのが、ISP(プロバイダ)や受信キャリアから「迷惑メール」判定されずに、受信トレイに届けることです。
SESは、AWSがIPアドレスの信頼性(レピュテーション)を厳格に管理しています。また、送信するコンテンツのフィルタリング機能も備えており、低品質なメール送信を抑制することで、全体の信頼性を維持しています。自前でサーバーを立てるよりも、SESを利用する方が高い到達率を容易に維持できるのはこのためです。
受信メールの処理と他のAWSサービス連携
SESはメール受信機能も備えています。指定したドメイン宛に届いたメールをトリガーとして、様々なアクションを実行できます。
例えば、受信したメールをそのままAmazon S3バケットに保存してアーカイブ化したり、AWS Lambdaを起動してメール内容を解析し、データベースに登録したり、自動返信プログラムを動かしたりすることが可能です。これにより、お問い合わせ対応の自動化など、柔軟なシステム連携が実現します。
導入前に知っておくべき注意点と運用の壁
SESは強力なサービスですが、導入してすぐに全機能が使えるわけではありません。不正利用防止のための制限や、長期的な運用を見据えたバウンス対策、近年厳格化している認証設定など、いくつか乗り越えるべき「壁」が存在します。
「サンドボックス」制限とその解除申請
SESを利用開始した直後は、「サンドボックス(隔離環境)」という制限モードに置かれています。この状態では、検証済みのメールアドレス以外にはメールを送信できず、1日の送信数上限も低く設定されています。
本番運用を行うには、AWSサポートへ「緩和申請」を行い、サンドボックス外への移動を承認してもらわなければなりません。申請時には、送信内容やバウンス処理の方法などを具体的に説明する必要があり、内容が不十分だと却下されるケースもあるため注意が必要です。
バウンス(不達)メールの適切な処理と管理
宛先不明などで届かなかったメール(バウンス)や、受信者からの苦情を放置して送り続けると、送信元としての評価が下がり、最悪の場合AWSからSESの利用を停止される可能性があります。
これを防ぐには、SNSとAWS Lambdaを組み合わせてバウンス通知を検知し、Amazon DynamoDBなどのデータベースに記録した上で、次回の配信リストから自動的に除外する仕組みを「自前で」構築・運用する必要があります。この仕組み作りは専門知識が必要となる部分です。
DKIM・SPF・DMARCなどの認証設定
近年、Gmailなどの主要プロバイダはスパム対策を強化しており、DKIM・SPF・DMARCといった送信ドメイン認証の設定が必須となっています。
これらが正しく設定されていないと、正当なメールであってもブロックされたり、迷惑メールフォルダに入ったりしてしまうでしょう。DNSレコードへの登録などネットワークの専門知識が必要であり、設定ミスがメール不達に直結するため、慎重な対応が求められます。
まとめ
AWSでメール機能を実装する場合、システム管理通知などの限定的な用途であればAmazon SNS、顧客向けのビジネスメール配信であればAmazon SESを選択するのがおすすめです。
SESはコストパフォーマンスと信頼性に優れていますが、一方で「サンドボックス解除」「バウンスメールの自動処理基盤の構築」「ドメイン認証の適正化」など、安定運用のためにクリアすべき技術的課題も少なくありません。
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