多くの企業が直面している、膨大なドキュメント管理の問題。部署によって保管サーバーやアプリケーションが異なり、必要な書類を見つけるのに時間がかかっているという企業も多いのではないでしょうか。このような状況は、企業の生産性に悪影響を与えかねません。
この状況の解消には、独自の検索システムを簡単に構築できるAWS提供の「Amazon Kendra」が役立ちます。Amazon Kendraを利用すれば、セキュアな環境で必要な資料をスピーディーに検索できるため、「あの資料はどこに保存したか?」と探すストレスもなくなるはずです。この記事では、Amazon Kendraの特長や利用するメリット、生成AIと組み合わせた検索システムの構築法などについて、具体的な活用例を交えながらご紹介します。
目次
Amazon Kendraとは
まずは、Amazon Kendraの概要や利用料金について解説します。
「Amazon Kendra」は、機械学習を活用して独自の検索システムを構築できる、AWSのサービスです。Amazon S3やAmazon RDSなどに格納された社内文書や、Gmail、Dropboxといった外部アプリケーションなどから、必要な情報を迅速に検索できるシステムを簡単に構築できます。日本語での検索も可能で、クラウドストレージやメールボックスに散在するデータやドキュメントを横断的に一括検索できます。
また、管理者は検索トレンドワードを確認できるため、頻繁に検索されるキーワードに注目して、現実に即した改善策を講じることも可能です。Amazon Kendraは、社内の情報やナレッジを容易に見つけ出し、共有できる仕組みを手軽に構築できるため、生産性を向上させながらイノベーションを追求したい組織には、欠かせないツールといえるでしょう。
Amazon Kendraの料金体系
Amazon Kendraの料金体系は、利用した分だけ支払う従量課金制がベースとなっています。料金プランは2つ用意されており、プランによりドキュメントの最大ストレージ数や1日あたりの検索クエリ数、1時間あたりの利用金額などが異なります。
具体的な料金プランは、以下の通りです。
Amazon Kendra料金プラン
Developer Edition | Enterprise Edition | |
---|---|---|
ストレージ | 最大10,000ドキュメント | 最大100,000ドキュメント |
1日あたりの最大クエリ件数 | 4,000 | 8,000 |
データソース | 5 | 50 |
アベイラビリティーゾーン | 1 | 3 |
無料利用枠 | 最初の30日間で最大750時間の無料利用枠 | なし |
1時間あたりの料金 | 1.125USD/時間 | 1.4USD/時間 |
「Developer Edition」は、開発者向けの小規模プランです。機能検証やテストをするのに適しています。「Enterprise Edition」は、文字通り企業向けのプランで、大規模なインデックス管理が可能となっており、本番運用向けを想定しています。両プランとも、ストレージのドキュメント最大数、1日あたりの検索クエリ最大数などが決められており、随時の追加も行えます。またDeveloper Editionには、最初の30日間・750時間分の無料利用枠が用意されているため、コストを気にせずに機能を試すことができます。
詳しくは、以下のページをご確認ください。
Amazon Kendraの料金|AWS公式ページ
https://aws.amazon.com/jp/kendra/pricing/
Amazon Kendraを利用するメリット
次に、Amazon Kendraの代表的なメリットを3つ解説します。
さまざまなデータソースに対応
Amazon Kendraのメリットの一つは、対応するデータソースの多さです。業務の中で生まれる文書などのドキュメントは、社内のオンラインストレージやメールボックス、外部アプリケーションなどさまざまな場所に散らばっています。これらを横断して検索するために、Amazon Kendraでは多様なデータソースに対応できる環境を用意しています。
Amazon Kendra内のネイティブコネクタを使えば、Amazon S3やAmazon RDSなどのAWSストレージはもちろん、オンプレミス環境やBox、Slack、Gmailなどの外部SaaSアプリケーションとも連携して検索対象にできます。
Amazon Kendraと連携できる外部サービス一覧は、以下のページから確認できます。
Amazon Kendra ネイティブコネクタ | AWS公式ページ
https://aws.amazon.com/jp/kendra/connectors/
また、ドキュメント形式もCSV、JSON、PDF、Word、Excel、HTMLなど、さまざまな形式に対応しており、あらゆるファイル形式をデータソースとして利用できます。
Amazon Kendra対応のドキュメント形式については、こちらをご覧ください。
Amazon Kendra開発者ガイド(ドキュメントタイプまたは書式)| AWS公式ページ
https://docs.aws.amazon.com/ja_jp/kendra/latest/dg/index-document-types.html
自然言語で検索できる
Amazon Kendraは、自然言語での高度な検索にも対応しており、人が会話する際に使うような自然な言語を用いてデータを検索することができます。これによって、より的確で関連性の高い情報を素早く探し出すことが可能です。
これまで多く利用されていたキーワード検索では、「売上 1月」といった単語を羅列して検索し、入力キーワードと一致する情報を集めるアプローチが主流でした。しかし、自然言語検索では、キーワードと一致した情報を集めるだけでなく、文章全体の意味やコンテクストを理解しながら、検索ユーザーの意図を深く理解しようとします。その結果、回答の精度が高くなるのです。具体的には、「1月の売上を教えて」や「経費申請の申請フローが知りたい」といった検索の仕方ができます。検索クエリを考える必要がなくなり、直感的な検索が可能になるため、利便性が大幅に向上します。顧客とのコミュニケーションが多いカスタマーサポートなどで活用すれば、顧客からの問い合わせに迅速かつ正確に回答できるようになり、サポートクオリティの底上げや向上にも役立つでしょう。
簡単に導入できる
簡単に導入できる点もAmazon Kendraの魅力です。Amazon Kendraは、専門知識や長い期間は不要で、容易に独自の検索システムをスタートできるよう設計されています。最短でAmazon Kendraを使い始めたい場合、実施する工程は「インデックス」と「コネクタ」を作成する2つだけです。
また、Amazon Kendraはフルマネージドサービスのため、サーバー管理の必要がありません。そのため、「数千万のドキュメントを対象とした検索サービスを、たった一人で管理しているお客様もいらっしゃる」とAWS公式サイトにも記されているほど、運用が簡単です。
セキュリティ面でも信頼性が高い
AWSはAmazon Kendraを「機密性の高い企業データを扱うクラウドサービス」と位置づけており、社内の機密文書の管理にも適しています。Amazon Kendraは、転送時と保存時の両方でデータの暗号化を行っており、機密性の高いシステムを構築できるようになっています。
また、AWS Identity and Access Management (IAM) と連携させれば、アクセスコントロールが可能となり、よりセキュアな環境を作れます。さらに、VPCエンドポイントを作成することで、セキュアなプライベート接続を確立し、ネットワーク分離を構築することも可能です。このようにセキュアな環境やコンプライアンスを確保するための仕組みが用意されているため、安心して利用できます。
生成AIを活用した他のAWSサービスと組み合わせた活用も
Amazon Kendraは、他のAWSサービスと組み合わせることで、活用の幅が大きく広がります。ここからは、生成AIと組み合わせたAmazon Kendraの活用法を紹介します。
生成AIの課題「ハルシネーション」
近年、生成AIが注目を集める一方で、その問題点として頻繁に指摘されているのが「ハルシネーション」の問題です。ハルシネーションとは、生成AIが質問に対して、もっともらしい虚偽の情報を出力してしまう現象のことです。具体的には、事実と異なる文章の生成や、存在しない風景を実在するかのように描写するなどの事例が挙げられています。ハルシネーションの原因は、学習データの偏りなど複数の要因が指摘されていますが、現時点では完全な解決には至っていません。業務上のミスや不利益を回避するためにも、仕事で生成AIを活用する際は、ハルシネーション対策が欠かせません。
ハルシネーションの問題に対処するための「RAG」
そんなハルシネーションへの効果的な対処法として注目されているのが「RAG(Retrieval Augmented Generation)」です。RAGとは、外部データベースからの検索結果を活用して回答する仕組みのことです。信頼のおける外部情報を組み合わせることで、回答精度の向上と虚偽情報の防止が期待できます。また、回答生成時にどの情報を参照したかも明示されため、仮にハルシネーションが起きたとしても、その誤りに気づきやすくなります。
このRAGの実装に役立つのが、Amazon Kendraです。Amazon Bedrockなどの生成AIサービスと連携させることで、RAG検索フローを組み込んだ高度な生成AIを簡単に作ることが可能です。ハルシネーションなどのリスクを抑えつつ、精度の高い検索システムを構築する際はAmazon Kendraを活用しましょう。
Amazon Kendraを活用した検索システムの導入を検討されている方は当社までご相談を
Amazon Kendraを使えば、従来よりも簡単に独自の検索システムを作れます。しかし、多数のアプリケーションと連携する大規模な検索システムの場合、その設計は複雑になり、実装する難易度も上がります。
TOKAIコミュニケーションズは、AWSサービス導入の豊富な実績があるため、大規模なAI検索システムの構築から中小規模のシステム構築まで、それぞれの企業ニーズに合わせた最適なAWS設計をワンストップで提供しています。当社の経験と専門知識が、貴社のビジネスをサポートします。
まとめ
Amazon Kendraは、自然言語検索も行える高度な検索システムを簡単に構築できるAWSサービスです。Amazon S3などのAWSストレージサービス、オンプレミス環境、さらにGmailやDropboxといった外部アプリケーションまで幅広いデータソースに対応しており、社内に分散したあらゆる種類のドキュメントを、統合的に検索することが可能になります。近年はDXの加速に伴い、データ管理の重要性が増しています。この機会にAmazon Kendraの導入を検討してみてはいかがでしょうか。検討にあたって、AWS導入やAmazon Kendra活用に関する課題をお持ちの方は、お気軽に当社までご相談 ください。