
AWSを利用してシステムやサービスを構築する際、どのリージョンを選ぶかは性能やコストに直結する重要な判断です。
特に国内拠点として利用が多い東京リージョンと大阪リージョンは、提供サービスや役割、レイテンシー(通信遅延)に特徴の違いがあります。選択を誤ると、想定外の通信速度低下やコスト増につながる可能性も否めません。
本記事では、AWSリージョンの基本知識から東京・大阪リージョンの比較、そして最適な選び方の基準までを詳しく解説し、ビジネスや開発環境に適した判断を支援します。
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目次
AWSリージョンの基礎知識
AWSを利用する上で、リージョンとその構成要素を理解することは、設計や運用の安定性を左右する重要なポイントです。
ここでは、リージョンとAZ(アベイラビリティゾーン)の基本的な考え方、リージョンごとの特性、さらに高速配信を支えるエッジロケーションやローカルゾーンについて解説します。
リージョンとAZの定義
リージョンとは、AWSが世界中に展開している物理的な拠点を指し、各リージョンは複数の独立したデータセンター群であるアベイラビリティゾーン(AZ)で構成されています。
AZは電源、ネットワーク、冷却設備などが分離されており、一つのAZで障害が起きても他のAZが稼働し続ける設計です。
例えば、東京リージョンは複数のAZを備え、同一リージョン内で冗長構成を組むことで可用性を高められます。この仕組みは、災害時にも業務継続を可能にする強固な基盤を提供する点で重要です。
リージョンごとの特徴(サービス・料金・レイテンシー)
AWSの各リージョンは、提供されるサービスや価格体系、ネットワーク遅延の面で差異があります。
新しいサービスは北米や欧州の主要リージョンから順次展開されるため、東京リージョンでは利用開始がやや遅れるケースもあるため注意が必要です。また、料金は為替や地域運営コストによって異なり、同じサービスでも米国東部(バージニア北部)リージョンに比べ東京リージョンは若干高めに設定されている場合があります。
通信遅延の観点では、利用者の地理的な近さが大きく影響します。例えば、東京からアクセスする場合、東京リージョンでは数ミリ秒の低遅延で応答しますが、北米東部リージョンでは150〜200ミリ秒程度に達することがあります。
こうした遅延はリアルタイム性を重視するアプリケーションに大きな差をもたらすため、ユーザーが多い地域に近いリージョンを選択することが基本戦略といえるでしょう。
エッジロケーションとローカルゾーン
エッジロケーションとローカルゾーンは、リージョンやAZを補完してさらに高速化を実現する仕組みです。
エッジロケーションは、Amazon CloudFrontなどのコンテンツ配信ネットワーク(CDN)を支える拠点で、静的ファイルや動画を利用者の近くにキャッシュし、世界中どこからでも短い応答時間を可能にします。
一方、ローカルゾーンは特定都市や産業拠点の近くに配置された小規模なデータセンター群で、ゲーム配信や金融取引など数ミリ秒単位の応答が求められるシステムに適しています。
これらを適切に組み合わせることで、ユーザー体験の向上とシステムの堅牢化が同時に実現できるでしょう。
東京リージョンと大阪リージョンの違い
AWSを国内で利用する場合、東京リージョンと大阪リージョンは重要な選択肢となります。ここでは、それぞれの観点から詳細に比較し、選定時に押さえておくべきポイントを整理します。
開設時期と役割の違い
東京リージョンは2011年に開設され、長年にわたり国内の基幹システムや大規模なWebサービスの主要な拠点として利用されてきました。
一方、大阪リージョンは2018年に一時的な「ローカルリージョン」としてスタートし、2021年に複数のアベイラビリティゾーンを備えた正式リージョンとして再構築されています。
当初、大阪は首都圏での大規模災害などに備えたバックアップの役割が強く、ディザスタリカバリー用途が主目的でした。しかし現在はその性格が大きく変化しています。複数のAZを持つようになったことで、東京リージョンと同等レベルで本番環境の運用が可能となり、災害対策だけでなく日常的なメイン環境として選ばれるケースも増えています。
これにより、東西での地理的冗長化や負荷分散を考慮したマルチリージョン構成も実現しやすくなっているのです。
提供サービスの差
サービスの提供範囲は両リージョンの重要な比較点です。東京リージョンは10年以上の運用実績があり、AWSが提供するほとんどの主要サービスに対応しています。新しいサービスは、北米や欧州の主要リージョンと比較すると提供が遅れる場合がありますが 、機械学習や最新のコンテナ基盤、データ分析系サービスなど、多くの機能が利用可能です。
一方、大阪リージョンは正式リージョン化してからの歴史が浅く、一部の最新サービスがまだ展開されていない場合があるでしょう。ただし、AWSは大阪リージョンの機能拡充を継続的に進めており、サービス対応数は増え続けています。
既にAmazon EC2、Amazon RDS、AWS Lambdaなどの主要サービスは東京とほぼ同等に使えるため、業務システムの本番稼働や新規サービスの構築にも十分対応可能な状況です。
料金とレイテンシーの傾向
AWSの料金体系はグローバルで設定されていますが、東京リージョンと大阪リージョンの間で基本的に大きな価格差はありません。オンデマンドインスタンスやデータ転送などの標準料金も同水準で設定されており、地域によるコスト差を理由に選択を左右する必要はほぼないといえます。
一方、レイテンシー(通信遅延)は利用者の所在地によって差が出ます。首都圏からのアクセスであれば東京リージョンが数ミリ秒単位の応答を実現するのに対し、関西圏からは大阪リージョンがより低遅延となる傾向があるでしょう。
逆に東京から大阪リージョンを利用する場合や、その逆の場合は数十ミリ秒程度の遅延が生じる可能性があります。このため、ユーザーが集中する地域に近いリージョンを選ぶことで、アプリケーションの応答速度やユーザー体験を最適化できます。
リージョン選定のポイント
AWSのリージョン選びは、サービスの対応状況、レイテンシー(通信遅延)、コストと可用性・BCP(事業継続計画)の三つを総合的に検討することが重要です。
ここでは、それぞれの観点を具体的に解説します。
利用サービスと対応リージョンを確認
AWSは200を超えるサービスを提供していますが、すべてが同時に全リージョンへ展開されるわけではありません。
最新機能は米国東部(バージニア北部)などの主要リージョンから順に拡大する傾向があり、日本では利用開始が遅れることもあります。例えば、生成AIの「Amazon Bedrock」やデータ分析向け「Amazon Redshift Serverless」、コンテナ運用に使う「AWS Fargate」などは、提供リージョンが限定的だった期間がありました。
利用したい機能が候補リージョンでサポートされているかを、公式の「Services by Region 」で確認しましょう。要件に必要なサービスが不足していると、設計のやり直しや別リージョンへの移行コストが発生する恐れがあります。
レイテンシーと利用者の分布を考慮
ユーザーが集中する地域に近いリージョンを選ぶことは、アプリケーションの応答速度を高める基本方針です。
通信の物理距離が短くなるほど往復時間が減少し、数ミリ秒単位の差がサービス品質を左右します。国内利用なら東京や大阪リージョンを選べば数ミリ秒の低遅延が期待でき、関西圏向けには大阪が有利です。
グローバル展開では北米や欧州など利用者が多い地域ごとに分散配置する方法が有効です。さらに、Amazon CloudFrontのエッジロケーションやAWS Local Zonesを併用すれば、ユーザーに近い場所でキャッシュや処理を行い、さらに高速化できます。
候補リージョンを決定する際には、実際の通信経路を計測して最適な組み合わせを検討することが推奨されます。
コスト・可用性・BCPのバランス
料金だけに着目すると、長期的なリスクを見落とす可能性があります。AWSは世界的にリージョンごとに価格設定がされており、オンデマンドインスタンスなどの標準料金は東京・大阪間で同水準ですが 、為替や電力事情、地域運営コスト により差が生じる場合があります。
それ以上に重要なのは可用性やBCPです。複数のアベイラビリティゾーンを使った冗長構成や、東京をメイン・大阪をセカンダリとする地理的分散は、障害発生時の復旧を迅速化します。
これらの設計には追加コストが伴いますが、システム停止による損失を考慮すれば有効な投資です。AWS公式の「Pricing Calculator 」でインスタンス、データ転送、バックアップ構成を含めた総コストを算出し、SLAや災害対策の要件と合わせて検討することで、費用と安定性の両立を実現できます。
まとめ
AWSのリージョンは、提供サービスの範囲、料金、レイテンシー、そして災害対策の手段がそれぞれ異なります。
東京リージョンと大阪リージョンは日本国内での主要拠点として安定稼働しており、利用サービスやユーザーの分布、可用性要件を踏まえた総合的な判断が欠かせません。システム設計段階でこれらを検討することが、長期的なコスト削減や安定運用につながります。
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