2021年に設立したデジタル庁が推進している「ガバメントクラウド」。現在、多くの地方公共団体が、このガバメントクラウドへの移行作業を進めています。では、なぜ政府はガバメントクラウドへの移行を推進しているのでしょうか。この記事では、ガバメントクラウドの基本知識や移行の目的・メリット、そして現場が抱える課題について、神戸市の先行事業の事例を交えながら解説します。
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ガバメントクラウドへの移行を検討中の自治体・公共団体様向けに、安全・スムーズな接続サービスについてご紹介しています。
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ガバメントクラウドとは?
まず、ガバメントクラウドの概要について説明します。
ガバメントクラウドとは
ガバメントクラウドとは、日本の行政機関や地方公共団体が共通して利用する、政府が整備・運用するクラウドサービス環境のことです。デジタル庁公式サイトでは、ガバメントクラウドについて以下のように説明しています。
"政府共通のクラウドサービスの利用環境です。クラウドサービスの利点を最大限に活用することで、迅速、柔軟、かつセキュアでコスト効率の高いシステムを構築可能とし、利用者にとって利便性の高いサービスをいち早く提供し改善していくことを目指します。地方公共団体でも同様の利点を享受できるよう検討を進めます。"
引用元:ガバメントクラウド|デジタル庁
これまでの行政機関や自治体は、ITシステムをそれぞれ独自に開発し、運用してきました。その結果、利用者の利便性やセキュリティレベルにバラつきが生じ、システムの運用負荷やコスト増大といった課題がありました。このような課題を解決すべく、2021年よりガバメントクラウドの本格構築と移行が、デジタル庁の主導によってスタートしました。
ガバメントクラウドの対象クラウドサービス
ガバメントクラウドで利用できるクラウドサービスは、政府が定めるセキュリティ評価制度である「ISMAP(イスマップ)」に登録されていることが前提条件となり、高いセキュリティレベルが保証されています。
- Amazon Web Services(AWS)
- Google Cloud Platform(GCP)
- Microsoft Azure
- Oracle Cloud Infrastructure(OCI)
- さくらのクラウド
出典元:令和4年度募集分ガバメントクラウド対象クラウドサービス一覧(令和5年4月3日改訂)
出典元:令和5年度新規募集分ガバメントクラウド対象クラウドサービス
当初はAWSとGCPのみの採用でしたが、2022年10月にはMicrosoft AzureとOCIが追加されています。また、2023年11月28日付けで新たに「さくらのクラウド」が選定され、初の国産クラウドサービスが採用されたと話題になりました。
ガバメントクラウド移行の目的・メリット
続いて、デジタル庁の資料を参考に、ガバメントクラウド移行の目的やメリットをご紹介します。
① サーバー・OS・アプリケーションの共同利用によるコスト削減
ガバメントクラウドを活用することで、地方自治体や政府関係機関はサーバーやOS、アプリケーションを共同で使えるようになります。その結果、これまで自治体ごとに個別にかかっていた開発・運用費を抑制でき、大幅なコスト削減につながります。
② 情報システムの迅速な構築と柔軟な拡張が可能になる
ガバメントクラウド上では、民間企業が開発した優れたアプリケーション(SaaS)を、各自治体が共通の基盤上で利用しやすくなります。これにより、自治体はゼロからシステムを開発することなく、スピーディーに新たな住民サービスを提供できるようになります。
③ 庁内外のデータ連携が容易になる
デジタル庁は、自治体などが持つ住民情報を国の行政機関などとスムーズに連携させる仕組みとして「公共サービスメッシュ」の構築を進めています。ガバメントクラウドへの移行は、このデータ連携基盤の実現を後押しします。これにより、オンラインでの行政手続きなどにおいて、住民は最小限の入力で手続きを完了できるようになるなど、国民の利便性向上が期待されます。
④ 各団体運用負荷が減少し、セキュリティが向上する
ガバメントクラウドでは、最新のセキュリティ対策が常に実行されています。これにより、各自治体が独自にセキュリティ対策を行わずにすみ、セキュリティの安全性も向上します。
※ 出典元:地方自治体のガバメントクラウド活用に関する検討状況(P4)|総務省
このように、日本の行政機関全体がガバメントクラウドに移行することで、政府や自治体にとっても、私たち国民にとってもさまざまなメリットが得られると見込まれています。
ガバメントクラウド移行における課題・注意点
多くのメリットがある一方、地方自治体がガバメントクラウドへ移行する際には、いくつかの課題も指摘されています。
IT人材の不足
これまでITシステムの運用を外部ベンダーに任せてきた自治体も多く、クラウドに関する専門知識を持った職員が不足しているケースは少なくありません。移行を円滑に進めるためには、外部の専門家の支援を得ながら、内部のIT人材を育成していく必要があります。
移行に伴うコストと業務負荷
現行のオンプレミス環境などからガバメントクラウドへシステムを移行するためには、当然ながら初期コストが発生します。また、新しいシステムに合わせて業務プロセスを見直す必要があり、職員の業務負荷が一時的に増大する可能性も考慮しなければなりません。
既存システムとのデータ連携
基幹業務システム以外にも、自治体が独自に運用しているシステムは数多く存在します。それらの既存システムとガバメントクラウド上の新しいシステムを、どのように連携させていくかという技術的な課題も存在します。
ガバメントクラウド移行の現状
課題はありつつも、日本全国の自治体でガバメントクラウドへの移行が推進されています。
先行事業としてすでに活用がスタートしている自治体
デジタル庁は、モデルケースとなる先行事業を行う自治体を公募し、以下の8団体が採択されました。
ガバメントクラウド
- 兵庫県神戸市
- 岡山県倉敷市(香川県高松市・愛媛県松山市と共同提案)
- 岩手県盛岡市
- 千葉県佐倉市
- 愛媛県宇和島市
- 長野県須坂市
- 埼玉県美里町(埼玉県川島町と共同提案)
- 京都府相楽郡笠置町
※ 出典元:ガバメントクラウド先行事業の採択結果について(市町村の基幹業務システム、P2)|デジタル庁
政令指定都市の神戸市から、人口約1,000人の笠置町まで、大小さまざまな規模の自治体でガバメントクラウドの移行作業が進んでいます。これらの自治体の取り組みが、今後のガバメントクラウド移行のモデルケースとなっていくでしょう。
AWSを利用した神戸市での先行事業の取り組み
先行事業の自治体として選ばれた神戸市では、対象クラウドサービスの一つであるAWSを活用し、「オンライン申請の審査効率化」を行っています。これは、行政手続きをスマートフォンで完結できるSaaSサービス「Graffer スマート申請」と連携し、煩雑な手続きの利便性を上げる試みです。
また、神戸市は新型コロナ対策の特別定額給付金の申請状況をWeb上で確認できるシステムを、ガバメントクラウド上で迅速に構築した実績もあります。
対応を迫られる地方自治体
政府は、住民基本台帳など20種類の基幹業務システムについて、2025年度末を目標期限としてガバメントクラウドへの移行を促しています。この期限に法的拘束力はありませんが、多くの自治体がこの目標に向けて急ピッチで準備を進めています。
前述したような課題を乗り越え、スムーズな移行を実現するためには、現行業務の綿密な洗い出しと計画策定が不可欠であり、現場では迅速かつ慎重な対応が求められています。

出典元:自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画【第2.0版】(P15)
まとめ
デジタル庁自らが率先してガバメントクラウド上でWebサイトを構築し、神戸市などの自治体が先行事業をスタートするなど、すでにガバメントクラウドへの移行は大きく動き出しています。
しかし、これまで独自のシステムを構築・運用してきた自治体にとって、ガバメントクラウドへの移行は簡単なものではありません。2025年度末という目標期限が迫るなか、自治体や行政機関の担当者は、迅速な対応を求められています。当社では、AWSへの接続や運用をサポートしています。興味がある自治体や公共団体のご担当者様の方は、ぜひご相談 ください。
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