クラウド利用が拡大し、システム規模が大きくなるにつれて、「VPCの数が増えすぎて管理しきれない」「オンプレミス拠点との接続が複雑になってしまった」という課題に直面することは少なくありません。
従来のVPCピアリング接続では限界がある大規模なネットワーク管理を、劇的にシンプルにする解決策が「AWS Transit Gateway」です。
本記事では、AWS Transit Gatewayの基本的な仕組みや導入メリット、VPCピアリングとの違い、そして料金体系や具体的な構成例について詳しく解説します。
【この記事で分かること】
- AWS Transit Gatewayの概要と「ハブ&スポーク」型ネットワークの利点
- 従来の「VPCピアリング」との違い・使い分けのポイント
- 4つの主要コンポーネント(アタッチメント・ルートテーブル等)の仕組み
- ネットワーク構成を簡素化するための具体的な導入イメージ
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AWSの基本から、コスト削減、セキュリティ対策、そして具体的な導入事例まで、AWS活用に必要な情報がこの一冊にまとまっています。
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目次
AWS Transit Gatewayとは
AWS Transit Gateway(以下、Transit Gateway)は、多数のVPCやオンプレミスネットワークを相互に接続するための「クラウド上のネットワークハブ(ルーター)」です。
個々のVPC同士を1対1でつなぐのではなく、Transit Gatewayを中心とした「ハブ&スポーク」型の構成をとることで、ネットワーク管理を一元化し、運用の複雑さを解消します。
なぜTransit Gatewayが必要なのか(VPCピアリングとの違い)
AWSでVPC同士を接続する際、これまでは「VPCピアリング」が一般的でした。しかし、VPCピアリングは「1対1」の接続しかできないため、VPCの数が増えると接続数(ピアリング数)が幾何級数的に増加し、管理が困難になる「フルメッシュ問題」が発生します。
一方、Transit GatewayはすべてのVPCを1つのゲートウェイに接続するだけで済むため、数百・数千のVPCがあっても管理をシンプルに保つことができます。
【比較表:VPCピアリング vs Transit Gateway】
| 項目 | VPCピアリング | AWS Transit Gateway |
|---|---|---|
| 接続形態 | フルメッシュ型 (1対1の網の目) | ハブ&スポーク型 (中心から放射状) |
| 管理の容易さ | VPC数が増えると非常に複雑 | VPC数が増えてもシンプル |
| 接続数の上限 | 制限あり (管理が現実的ではない) | 数千のVPCを接続可能 |
| 帯域幅 | 制限なし (インスタンス性能に依存) | 最大50Gbps (1アタッチメントあたり) |
| コスト | データ転送量のみ | 時間単位の利用料 + データ処理料 |
AWS Transit Gatewayを導入する3つのメリット
メリット1:複数アカウント・組織レベルでの統合管理が可能
Transit Gatewayは、単一のAWSアカウント内だけでなく、組織内の異なるAWSアカウント間でもネットワークを共有・統合管理できます。
これを実現するのが「AWS Resource Access Manager (RAM)」との連携です。 例えば、ネットワーク管理部門のAWSアカウントで作成したTransit Gatewayを、開発部門や各プロジェクトのAWSアカウントへ共有することができます。これにより、以下のようなメリットが生まれます。
- 管理の集約:ルーティングやセキュリティポリシーは管理者が一元管理し、利用者は接続(アタッチメント)するだけという、役割分担が可能になります。
- 設定の簡素化:多数のVPC間で個別にピアリング設定を行う必要がなくなり、アタッチメントを追加するだけでネットワークに参加できます。
- セキュリティ向上:通信経路が一箇所に集約されるため、トラフィックの監視やパケットフィルタリング等のセキュリティ対策を統一して適用しやすくなります。
Transit Gatewayによるネットワーク集約のイメージ
以下の表は、フルメッシュでVPCピアリングした数(①)とTransit Gatewayを用いた後のアタッチメント数(②)です。VPCピアリングの手間を減らせたのが、お分かりいただけると思います。
メリット2:VPN接続を集約できる
Transit Gatewayを用いると、VPCごとにVPN接続が必要だったのが1つに集約できるため、VPN接続料金を大幅に減らすことができます。例えば、企業が複数の拠点を持っている場合、それぞれの拠点のネットワークを Transit Gatewayを使用して一元管理することで、管理の効率化とコスト削減が可能になります。ネットワークの統合管理を通じて運用の効率性を高め、コスト削減を実現しましょう。
以下の表は、VPCごとのVPN接続料金(①)とTransit Gatewayを用いた後のVPN接続料金(②)です。VPN接続を集約できたため、接続コストを減らせたのがお分かりいただけると思います。
メリット3:AWS Direct Connectとの接続を集約できる
Transit Gatewayを用いることで、AWS Direct Connectとの接続を集約できます。ルーティングで接続するVPCの制御が可能になり、VPC間通信も制御ができるようになります。
AWS Transit Gatewayの構造と主要コンポーネント
ここでは、Transit Gatewayの主な構成要素について詳しく解説します。具体的には、Transit Gatewayのルートテーブル、アタッチメント、アソシエーション、プロパゲーションという4つの要素が重要です。各要素がどのように機能し、どのように相互に関連しているかを詳しく確認していきましょう。
①ルートテーブル
ルートテーブルはネットワークトラフィックを管理するための重要な要素です。正しいルート設定がされていないと、データが目的の場所に届かない可能性があるためです。Transit Gatewayにおいて、ルートテーブルは各アタッチメントがどのように通信するかを定義します。例えば、複数のVPC間での通信や、オンプレミスネットワークとの接続をスムーズに行うためには、ルートテーブルで正確な経路設定が必要です。接続ポイントごとにルートテーブルを設定することで、適切な経路を確保し、無駄なトラフィックを防ぐことができます。
Transit Gatewayのルートテーブル設定には、セキュリティグループやNetwork ACLの設定も含めることが多く、これによりトラフィックの流入・流出を厳格に管理することが可能です。また、Transit Gatewayには最低1つのルートテーブルが必要です。(複数作成することも可能)Transit Gateway作成時にデフォルトのルートテーブルが作成されます。任意で新規作成もできますので、ご自身の目的に合わせて作成してください。
ルートテーブルの設定にはいくつかのベストプラクティスがあります。例えば、スタティックルートを設定することで、ネットワークの安定性を維持し、トラブルシューティングを容易にします。また、ルートの伝播(プロパゲーション)機能を活用することで、複数のルートテーブル間でのルート情報の自動更新を可能とし、管理の手間を軽減することも重要です。ルートテーブルの有効な管理と運用は、ネットワークのパフォーマンスと可用性を向上させるための鍵となります。ルートテーブルの設定は一度きりではなく、ネットワーク構成変更時には随時見直しを行い、常に最適な状態を維持することが求められます。
②アタッチメント
上記構造図では、Transit GatewayとVPC・Direct Connect Gateway・サイト間VPN接続を関連付けています。
Transit Gatewayの「アタッチメント」はネットワークの接続点として重要な役割を果たします。アタッチメントは、仮想プライベートクラウド(VPC)やオンプレミス環境とTransit Gatewayを接続するためのインターフェースです。これにより、一元的で効率的なネットワーク管理が可能となります。例えば、複数のVPCを持つ大規模な企業は、各VPCを個別に管理する代わりに、すべてのVPCをTransit Gatewayにアタッチすることにより、ネットワーク構成の簡略化ができます。また、オンプレミスデータセンターとAWS間でのシームレスな接続を実現する際にも利用されます。
アタッチメントを利用することで、ネットワーク管理の一元化が可能となり、運用の効率性と利便性が向上します。VPCやオンプレミス環境とAWSを接続するためのシンプルでスケーラブルなソリューションを提供し、複数のネットワークの接続と管理を一箇所で行えるようになります。この機能は特に、ネットワークの複雑化が進む大規模な企業や、異なるリージョンや環境間で高い可用性とパフォーマンスを維持したい場合に有用です。
③アソシエーション
アソシエーションは、Transit Gatewayに接続するサブネットを指定する仕組みです。アソシエーションを設定することで、特定のサブネットが Transit Gatewayを通じて他のVPCやオンプレミスネットワークと通信できるようになります。
例えば、VPC内のプライベートサブネットを Transit Gatewayにアソシエーションすることで、そのサブネット内のリソースが他のネットワークと安全に通信できます。この設定により、プライベートサブネット内のEC2インスタンスが、直接接続されている他のVPCやオンプレミスのリソースに対して、セキュリティを保ちながらアクセス可能です。
1つのアタッチメントに対し、アソシエーションできるルートテーブルは1つです。アソシエーションの設定を適切に行い、必要なリソース間の通信を確立しましょう。これにより、ネットワークトラフィックの整理がスムーズになり、管理も簡素化されます。AWS管理コンソールを利用してアソシエーションを設定する場合、関連するサブネットを正確に選択し、必要なルートを定義することで、円滑に運用を開始できます。
④プロパゲーション
プロパゲーションは、ルートテーブルの間でルートを伝播(拡散)させる機能です。これにより、異なるネットワークセグメント間の通信が効率的になり、手動でルートを設定する手間が省けます。例えば、あるVPCから別のVPCへトラフィックを転送する際、プロパゲーションを使うことで、自動的に適切なルートが設定され通信がスムーズになります。プロパゲーション機能を活用することで、ネットワーク管理が簡単になり、全体の運用効率が向上します。
上記構造図では、ルートテーブルごとにプロパゲーションするアタッチメントを登録します。また、各アタッチメントは複数のルートテーブルにプロパゲーションが可能です。これにより、自由に通信制御が可能になります。なお、アソシエーションとプロパゲーションは相互に関連するものではありません。そのためアソシエーションはしないが、プロパゲーションはするという設定も可能です。
AWS Transit Gatewayの利用料金
Transit Gatewayの料金は使用量と地域によって異なります。具体例として、アジアパシフィック(東京)リージョンにおける料金を確認しましょう。
アジアパシフィック(東京)リージョンのAWS Transit Gatewayの料金
| AWS Transit Gatewayのアタッチメントごとの料金 | 0.07USD/時間 |
|---|---|
| 処理データ1GBあたりの料金 | 0.02USD/GB |
接続ごとやデータ転送量に対する料金が発生します。具体的には、Transit Gateway接続時間とデータ転送料金の2つの主な要素に基づく料金体系が一般的です。
下記のような図の場合、アタッチメント5個分の利用量+データ転送量が課金対象になります。
- ※ AWS Direct Connect・VPNの利用料金は別途発生します。
- ※ AWS Transit Gatewayについて詳しく料金を知りたい方は、AWS Transit Gatewayの料金
をご確認ください。
AWS Transit Gatewayの構成例
以下の図は Transit Gatewayの構成例です。 Transit Gatewayを導入したことで、VPN接続を集約でき、VPCピアリングの手間を削減できました。
結果、コストや運用管理の手間を削減でき、ネットワークも簡素化されました。
クラウドファイルサーバーでの活用方法
Transit Gatewayを使用することで、複数のVPCやオンプレミス環境間のファイル共有がスムーズに行えます。例えば、企業内の各部門が異なるVPCに存在する場合、Transit Gatewayを活用することで、部門間でのファイルサーバーの共有が容易に行えます。これにより、データの移動やアクセスがスムーズになり、業務効率が向上します。さらに、ネットワークトラフィックを中央管理できるため、通信の監視や管理も簡素化され、トラブルシューティングも効率的に行えるようになります。
以下記事では、クラウドファイルサーバーサービス Amazon FSx for NetApp ONTAPでTransit Gatewayを活用している記事をご紹介します。是非参考にしてみてください。
AWS活用法 | Amazon FSx for NetApp ONTAP導入時の注意や検討ポイントを徹底解説
まとめ
今回は、Transit Gatewayを利用したオンプレミスと複数VPC間のネットワーク接続についてご紹介しました。
当社では Transit Gatewayを含むAWSとオンプレミス間のネットワーク(AWS Direct Connnect接続回線 、VPN接続回線)をご提案することが可能です。特に閉域網接続においては、当社のキャリア・企業向け通信サービス「BroadLine」
を利用するため、安心でセキュアな接続が可能です。
- ※ 実際の導入にあたっては、 Transit Gatewayの各種制限、コスト関連の検討が必要不可欠になります。 Transit Gatewayよくある質問
、AWS Black Belt
のご確認をお勧めします。
今回の記事よりAWS利用に興味を持たれた方は、是非当社までお問い合わせ ください。
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